⑰おしっこはまだ漏らさないけど

　昨日は海でたくさんはしゃいだからか、今日は一転ずっと寝ている。トイレに行かせたいから起こすのだけれども、面倒くさそうに起きて、庭に出て用を足して、また家に入って寝る、という感じ。

　ボニーはうんちは時々ハウスやバギーのなかでしてしまうけれど、おしっこはまだ一度も漏らしたことがない。いろいろな老犬介護についての本を読むと、みんなほんとうに動けなくなってからおしっこを漏らすようになるようだ。それからおむつをつけるようになる。ボニーはまだハーネスで支えながら歩けるからそこまでいっていない。

　ぼくは先のことはあまり考えないようにしている。いま、ボニーとともにいること、ボニーとともに生きている実感、それだけを大事にしていきたい。このさき何が起きようと、それはそのときだ。


　最近、散歩中にずっと佇んで動かないときがある。きょうも夕方だけバギーに乗って近所の公園まで行ったが、しばらく同じ場所でずっと佇んでいた。「帰るよ」と何度いっても、無理やり引っ張っても動かない。好きなお菓子で釣っても動かない。

　仕方ないから15分くらい、二人で佇んでいると、とぼとぼと歩きはじめ、公園の片隅でおしっこをした。足腰が痛くて歩くのが辛いのかな、と思うけれど、そうでもない楽しそうな表情をしているときもある。もしかしたらボニーは「もうすこし一緒にいて」と言っているのかもしれない。ついトイレのことが先行して、ゆっくり何もしないで過ごす時間を蔑ろにしてしまってるのかもしれない。

　一緒に佇める時間、それだけでも幸せであったと思えるときがいつかきっと来る。そう思いながら、今日はだれもいない公園の片隅でふたりでしばらくなめらかな風を浴びていた。

　
　「帰ろうよ」「帰らないよ」を繰り返す犬と私の影は伸びゆく