(73)喪失からのみちのり16闇夜にこそ輝く

 緊急事態宣言が出た今日の午後、ぼくはバイクに乗って近くの海に出かけた。誰にも会わずに走るのだからいいだろう。締切前の仕事に煮詰まっているのもある。「平成の文学」について書かなければいけないのだけれど、どうもまとまらない。

 それで海を見ながら、ぼくが青年期を生きた「平成」は、まさにボニーとともにその半分を生きてきたことに思いを馳せた。ボニーが来たのは平成17年の1月、ぼくが32歳のときだった。「平成」の世の中ではいろんな出来事が起きていた。オウム事件を筆頭に、リーマンショック、「3.11」......

 でもボニーとの暮らしはうつくしかった。時代が不幸を示せば示すほど、ボニーとの生活は輝いていた。それはただボニーの存在がうつくしかったからだ。

 
 ぼくのたったひとつの愛撫で
 全身ではじけるお前の輝き。


 20世紀初頭のフランスの詩人ポール・エリュアールの詩だ(安東次男訳『愛すなわち詩』より)。第一次大戦中の過酷な日々に、詩人はこんなうつくしい詩を書く。エリュアールは愛犬家だった。


  危機のなかにすべて愛する人たちよ子を抱きつつ輝けとねがうのみ



(去年の秋頃、O公園にて)

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