(99)回復への日々3.ボニーの幻影と歩く

 10日ほど前、早朝に左側の腰に強烈な痛みを感じ、なんとかベッドから起き上がった。もうボニーの散歩には行かなくていいから、トイレに行ってまたベッドに転がり込んだ。
 
 ずっと前から腰痛持ちで、ぎっくり腰も経験しているから、この痛みがこれまでの腰の痛みと違うものと思えたが、とにかく数日すれば治るだろうと湿布を貼りながら過ごした。でもいっこうに治らない。治るどころかどんどん痛みが増して、ついに歩行ができなくなってきた。

 5分歩くともうダメで、しゃがみこんでいると次第に痛みが消えてまた歩く、という感じだ。酒の飲み過ぎでついに内臓をやられたか、あるいは頸椎ヘルニアが腰にもきたか、などなどと心配になって、ヘルニアの治療をしてる病院に駆け込んだ。

 そこで首から腰までの全身のレントゲンを撮ってみたら、腰の骨の一つがずれている「すべり症」と診断され、しばらく痛み止めの薬と湿布をもらい様子を見ることになった。今週木曜にはMRI。あれは頸椎のヘルニアが発症した際にもやったが、宇宙遊泳しているようなかなり好きな検査だ。

 ボニーの晩年は歩くのもままならない椎間板ヘルニアになっていた。少し歩いては休み、また少し歩いては休み……という今の僕そのものだった。加えて眼も磨りガラスの視界となり、脳梗塞の3度目の発作も起きていた。にもかかわらず僕がハーネスで支えながら一緒に最後まで、ほんとうに嬉しそうに歩いていた。きっと歩くのは相当に辛かっただろうに、といま僕が「すべり症」になってあの頃のボニーの思いを痛感している。

 でもいま、こんな状態になった僕はボニーの介護はもうできない。ボニーは春先に突然いなくなってしまった感じがするけれど、この夏は僕とはきっと乗り越えられないと思う。

 そんなふうにいろいろと思いつつ、なんとなく、あの頃のボニーと今日ゆっくり散歩道を歩いた。


  「この坂はやめようね」 「うんやめよう」と語りつつ
  夕陽のなかで君と休んだ




  

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